少子化が進むなか、生徒獲得は年々難易度を増し、保護者の“スクール選び”の目も確実に厳しくなっています。
学力向上だけでなく、教育の質や対応の丁寧さまで見極めようとする保護者が増えている今、スクールにとって問われるのは“教える力”だけではありません。
安定したスクール運営を続けていくうえで、実は「受付」や「事務」スタッフが果たす役割は想像以上に重要です。
体験レッスンの内容や講師の印象も、入会を決めるうえで欠かせない要素ですが、それ以上に、問い合わせや相談時に最初に対応するスタッフの印象が、スクール全体への信頼感や満足度に直結します。
また、不満やクレームが生じた際には、“緩衝材”としての高い対応力が求められます。ここでの対応次第で、トラブルが深刻化し退会につながることもあれば、逆に信頼を築く転機になることもあります。
当社の調査によると、スクールの集客の約45%は口コミによるものと分かっています。
つまり、日々の対応の質がそのまま評判に直結するということです。特に、トラブルの初期段階で誠実で柔軟な対応ができれば、保護者の満足度を高めるだけでなく、好意的な口コミの拡散にもつながります。
このように、問題が大きくなる前に迅速かつ的確に対応し、保護者に安心感と信頼感を与えられる優秀なスタッフの存在は、スクール運営にとって欠かせません。
しかし、実際にはそのような人材の採用や配置がうまくいっておらず、役割に対する認識や体制づくりに課題を抱えているケースが少なくありません。
本記事では、こうしたスクール業界特有の採用・人事課題に焦点を当て、「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」という新しい考え方を取り入れることで、保護者対応の質と組織全体の安定性につながるということを説明していきます。
幼保・塾などスクールの「受付」や「事務」は一般的な「受付」ではない
企業の受付や一般事務の仕事は、来客対応や電話応対、資料整理や庶務業務が中心です。しかし、スクールにおける「受付」や「事務」は、まったく別の顔を持ちます。
教育機関での受付は、子どもの学びを支えるだけでなく、保護者という“本質的な顧客”との最前線に立つ存在です。特に、保護者からの相談・クレーム・不安への対応は日常的に発生します。
一方で、講師は教育活動が最優先です。保護者対応を積極的に担うことは少なく、また専門職であるためそういった時間を作ることが難しい面もあります。
また、外国人講師が在籍するインターナショナルスクールやプリスクール、外国語教室などでは、日本的なホスピタリティやコミュニケーションが通じにくい場面も多々発生します。そういった場合には、間をつなぐ「受付・事務」スタッフの役割はとても重要になってきます。
スクールの「受付」や「事務」で陥ってしまう採用課題
このように、実際には高度な対応力や調整力が求められるポジションであるにもかかわらず、多くのスクールでは「受付・事務=雑務・補助職」と捉える経営者が少なくありません。
実際の現場では、受付対応だけでなく、ホームページの更新、講師の勤怠・給与管理、チラシの作成など、多岐にわたる業務を“何でも屋”のようにこなすことを求められるケースも多く見られます。
その一方で、求人媒体では「受付」や「事務」として募集が出されるため、応募者は一般企業の受付や事務業務を想定して応募してくる傾向があります。結果、実際に求められる保護者対応とのギャップにより早期退職に至るケースや、そもそも業務を担うスキルや経験が不足しているミスマッチも少なくありません。
このように、職務内容の定義が曖昧なまま採用活動を行っていると、応募者との期待のズレが発生しやすく、それが知らず知らずのうちに保護者満足度の低下や対応品質の劣化につながります。
その結果として、クレームや退会、さらには評判の低下といった負の連鎖を引き起こしてしまう可能性があるのです。
スクールにおいて、「受付」や「事務」が本来担うべき役割
幼保、学習塾、語学スクールなど、各種スクールにおける「受付・事務」は、単なる雑務処理係ではありません。本来、現場と保護者の間をつなぐ多面的な役割を担うべき、戦略的ポジションです。
もちろん、電話や来客の一次受けとしてアルバイトスタッフを配置すること自体は問題ありません。しかし本記事でお伝えしたいのは、その先にある“判断力と責任を持って対応できるスタッフ”の必要性です。スクールの信頼度や満足度を大きく左右する場面では、誰が対応するかが非常に重要になるのです。
・講師と保護者の調整役:講師は授業や生徒対応といった教育活動に専念すべきであり、保護者とのやりとりは原則として受付・事務が担うことで役割分担が明確になります。特に語学系やインターナショナルスクールでは、外国人講師と日本の保護者との間に文化的・言語的ギャップが存在します。
日本的な高いホスピタリティや応対品質を求める保護者と、外国人講師の直接のやり取りは、誤解や不満の火種になりやすく、絶対的に避けるべきです。もし、直接のやり取りを行う必要がある場合は、その間をつなぐ調整役としての受付・事務の同席が不可欠です。
・保護者との信頼形成:保護者はスクールの“顧客”であると同時に、非常に高い期待値を持つ存在でもあります。たとえば、都心の進学塾であれば、保護者が大手企業の役職者であったり、プロフェッショナルな職種の方であることも珍しくありません。そうした方々が求める“質”は非常に高く、形式的な丁寧さだけでは信頼を得ることはできません。
実際、入会前のやりとりが形式的なものだったことで、保護者の信頼を失い、契約に至らなかったというケースは業界内でもよく耳にします。たとえば、「進路相談にはどういった対応をされていますか?」という質問に対し、受付が「講師に確認します。」とだけ返答したため、その場で帰られたといった事例があります。つまり、受付や事務スタッフが我関せずのスタンスでは許されないということを表していて、授業料や保育料など費用が高騰し、さらに少子化が進むスクール業界では決して珍しいことではありません。
問い合わせや見学時に対応したスタッフの印象ひとつで、契約率や継続率が大きく左右されるケースも多くあります。「受付はアルバイトで十分」という意識では、顧客が本当に求める質には届かなくなってきています。
・フィードバックのハブ:保護者からの意見・評価・要望・不満を正確に受け取り、現場や経営に的確に伝える役割も受付・事務の重要な役割です。伝達が曖昧だったり、対応がうやむやになったりすると、「改善されていない」と感じた保護者の不信感が高まります。
要望に対してどのような対応がなされたかを“可視化”し、保護者が納得できる形で伝えることが、信頼形成と運営改善の両面で非常に重要です。
・感情の橋渡し:受付・事務は単なる事実の伝達役ではなく、保護者の意図や感情を読み取り、現場へ適切に橋渡しできる力が求められます。ときにはクレーム対応や解決策の提示まで任されるべき場面もあります。
たとえば、「子どもが最近授業についていけていないようだ」と不安を訴える保護者に対して、「講師に伝えておきます」で終えてしまえば、保護者は「真剣に向き合ってもらえていない」と感じかねません。ここで、“不安に共感しつつ、必要に応じて教務担当や責任者と連携し、具体的なフォロー案を伝える”といった対応ができるかどうかが信頼形成の分かれ目となります。
一次対応がアルバイトで、判断力や裁量が不足している場合、感情が高ぶった保護者に対して形式的な対応をしてしまい、かえって事態を悪化させることもあり得ます。適切な判断と落ち着いた対応ができる専任スタッフこそ、トラブル予防のカギとなるのです。
このように、受付・事務の役割を単なる事務作業や雑務としてしまうのではなく、“顧客体験を支えるフロントライン”として再定義することは、スクールの運営品質を根本から向上させる第一歩となります。
役割に見合った人材要件と採用方針を見直すことで、保護者満足度の向上、クレームの減少、継続率向上といった好循環を実現することができるのです。
スクール運営の新戦略:「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」発想で採用課題に挑む
スクール運営における人材配置を見直すうえで、今注目すべき考え方が「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」という職種です。
もともとはSaaS企業などで誕生・発展してきた役割で、顧客がサービスを継続的に利用し、満足し、成果を得られるよう支援するポジションとして重視されてきました。単に「問い合わせに対応する人」ではなく、顧客(Customer)の成功(Success)をマネジメントする責任者という戦略的な職種です。
このCSMの考え方は、保護者との関係構築や満足度向上が極めて重要なスクール業界にも、そのまま応用することが可能です。
CSMの主な役割とは?
- 顧客(保護者)との関係構築:入会時から継続利用に至るまで、信頼関係を築き、安心して通い続けてもらうサポートを行う。
- トラブルの予防と初期対応:不満や誤解がクレームに発展する前に兆候を察知し、迅速に調整・対応する。
- 社内・現場との橋渡し:顧客の声を講師や運営スタッフに的確に伝え、現場と保護者の間のズレを解消する。
- 能動的な価値提供:問題が起きてから動くのではなく、保護者が満足できる体験をあらかじめ設計・実行する。
これらの役割から分かるように、CSMとは単なる「対応係」ではありません。
最大の特長は、「クレームが起きてから対処する」のではなく、「クレームが起きない状態をつくる」ことを重視する点にあります。その本質は、“守りの姿勢”ではなく、“先手を打って信頼と満足を育てる”という戦略的かつ能動的なスタンスです。
スクールにおける受付・事務がこのCSM的視点を持つことで、業務の質と保護者満足の水準は格段に向上します。単なる雑務スタッフから、保護者対応の中核を担う“信頼構築のプロ”へと役割が進化するのです。
教育機関における「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」の役割
具体的には、以下のような業務がCSMに該当します。
- 保護者対応の一次窓口
苦情や不満の初期対応を担い、トラブルの火種を早期に鎮火。 - 講師・運営との橋渡し
保護者の声を現場に伝えつつ、現場の立場も保護者へ丁寧に伝える。 - クレーム予防の仕組みづくり
よくある誤解・不満を分析し、案内改善やマニュアル整備を進める。 - 入会・見学時の印象設計
第一印象の応対によって、信頼感・安心感を醸成し、入会率や紹介率を高める。 - 情報の記録と改善提案
対応履歴を残し、経営層へ改善案をレポートすることで運営のPDCAを支援。
これらの業務は、従来の「受付」「事務」の範疇では収まりきらない、まさに戦略的なポジションです。
どのような人を採用すべきか?
幼保・塾など各種スクールにおける「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」は、単なる事務職ではなく、顧客である保護者との信頼関係を築き、スクール運営の安定を支える中核的なポジションです。
そのため、求められる人材も従来の「受付・事務」とは大きく異なります。
ここでは、スクール業界のCSMに適した人材像を3つの観点から整理します。重要なのは、これらを一部だけ満たすのではなく、総合的に兼ね備えている人材こそが理想的であるという点であり、貴重な人材となります。
・保護者対応に慣れた社会人経験者
CSMの最も重要な役割は、保護者との接する中で信頼を築くことです。そのため、カスタマーサポート・接客・営業など、対人対応の経験が豊富で、相手の感情の動きに敏感に反応できる力を持つ人材が求められます。
なお、多くのスクールが「教育業界経験者」を優先して採用しようとする傾向がありますが、現実的にはスクール業界でCSM的役割を果たせる人材はほとんど存在しません。むしろ、異業種で実績のある人材こそ、適任となるケースが多いのです。
・判断力と調整力のある人
CSMには、状況を見極めて柔軟に動く“現場感覚”と“判断力”が不可欠です。保護者の声を正しく受け止め、講師や運営スタッフと連携しながら最適な対応を率先して組み立てていく調整力が求められます。
多くのスクールでは、受付=「事務処理ができる人」として採用されてきました。パートである場合もあるでしょう。そのため、こうした対応力や主体性を持つ人材は、これまで採用対象にはなっていなかったという背景があります。今後は、職種の枠を越えて、より柔軟かつ実務対応力のある人材を他業種から積極的に採用すべきでしょう。
・情報を正確に伝達・記録できる人
CSMの役割は感情のケアだけでなく、現場改善のためのフィードバックルートとしての機能も含みます。そのため、保護者対応の内容を正確に記録し、必要な情報を運営や経営層にわかりやすく伝達するビジネススキルが求められます。
この点では、単なる接遇力だけでなく、ロジカルな伝達能力や報告書作成スキルなど、ビジネスコミュニケーションの素養が必要です。
まとめ
幼保・塾など各種スクールにおける「受付・事務」は、単なる裏方業務ではなく、今や保護者対応の最前線に立ち、顧客満足・退会防止・運営改善に直結する戦略的なポジションです。
しかしながら、従来の「受付」や「事務」といった職種名・役割定義のままでは、期待される業務とのズレが大きく、採用時のミスマッチや人材の定着率低下といった課題が発生しやすいです。
特に現在は、少子化により生徒の獲得競争が激化していて、さらに単に学力向上だけではなく“教育の質”や“対応の質”を重視する保護者が増えているという社会的背景もある中で、保護者との信頼関係を築き、長く通いたいと思ってもらえる環境づくりが、これまで以上に求められています。
そこで有効なのが、「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」の導入です。職務内容を再定義し、保護者との関係構築や継続支援といった“顧客成功”を担う役割として再設計することで、採用の質も業務の質も大きく向上します。
まずは一部の校舎やモデル拠点から、CSMの試験導入をスタートしてみてはいかがでしょうか。
受付・事務を“戦略的カスタマーサポート”として捉え直すことは、スクール全体のブランド価値・継続率・信頼性を高めるための大きな一歩となるはずです。
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