塾や教室などスクールが考慮すべき特定商取引法と消費者契約法

法律問題

1.特定商取引法の規制対象となる「特定継続的役務」

「特定継続的役務」は特定商取引法の中で規制されているビジネス形態になります。
長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引のことを指し、2023年4月現在、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の7つの役務が対象とされていて、塾やスクール関連で考慮すべき規制対象は以下の4つとなります。

いわゆる語学教室
語学の教授(入学試験に備えるため又は大学以外の学校における教育の補習のための学力の教授に該当するものを除く)

いわゆる家庭教師
学校(幼稚園及び小学校を除く)の入学試験に備えるため又は学校教育(幼稚園及び大学を除く)の補習のための学力の教授(いわゆる学習塾以外の場所において提供されるものに限る)

いわゆる学習塾
学校(幼稚園及び小学校を除く)の入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学校(幼稚園及び大学を除く)の児童、生徒又は学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る)

いわゆるパソコン教室
電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授

プログラミングスクールは「いわゆるパソコン教室」に該当するのか?

例えば、プログラミングスクールが「特定継続的役務」に該当するのか?については、実際に消費者庁及び経済産業省で検討が行われました。

その結果、パソコンの操作に関する知識や技術の教授と一体不可分とならない限り、「特定継続的役務」に該当しない、つまりパソコン操作と操作以外のパソコン技術(今回の場合はプログラミングに関する技術)が分けられない場合は「特定継続的役務」に該当しないという回答が出されています。

※詳細は以下の外部リンクをご確認ください。

■外部リンク:インターネットを通じたプログラミング教育の提供が明確化されます

パソコン操作の分からない大人がパソコン操作を習うために通う教室は「特定継続的役務」に該当し、小学生などパソコン操作が分からない子どもが通うプログラミングスクールは「特定継続的役務」には該当しないという理解になります。

2.月謝以外の費用と特定商取引法の関係

塾やスクールでは月謝以外に様々な項目の費用が発生します。
入会金・年会費・休会費・施設利用料などです。その中で入会金や年会費について法律の観点で掘り下げてみます。

入会金

入会金はそもそも何にかかる費用なのか?を明確にしましょう。
入会のときに支払われるお金ということからすると、少なくとも、契約を締結するために要する費用やこれから役務を提供するにあたって必要な準備行為(例えば会員登録)をすることに対する対価という趣旨は含まれているのではないかと思います。

ただし、入会金という名目で金銭を得つつも、それ以外の趣旨、例えば、役務提供の対価の前払いのようなものが含まれているケースもみられます。いわゆる会員権サービスにおける入会金は高額だったりしますが、それは役務提供の対価の前払い的な要素が含まれているからこそだと思われます。

例えば、特定商取引法上の学習塾に該当する場合、クーリングオフ期間経過後であっても、役務提供前であれば、11,000円を超える部分は返金しなければならないという規則があります。

これをふまえると、11,000円を超える「入会金」は、それ以外の要素が含まれているものと考えざるをえず、それを超える金額を受領しているにもかかわらず、解約時に一切返金しないとすることは、状況次第では(契約締結に要する費用または準備行為に対する対価以外の対価を受領することの説明が困難である場合)、過大な違約金であるとして、消費者契約法9条違反になる可能性があります。

年会費

年会費というのは、授業料以外に、年1回請求する費用です。
まず、年会費の実態が何かを明確にする必要があります。
例えば、年間の授業料の前払いなのか、施設の維持管理費なのか、あるいはそれ以外の何かなのか、年会費というだけでは判断がつかないためです。
しかし、少なくとも、年会費は「1年分の何か」ですから、年間の途中で塾をやめた場合は本来未経過分について、塾は受け取ることができないもの(返金しなければならないもの)ということになります。

年会費がそのような性質のものであるとすれば、年会費は一切返金しないという規約があるとしても、一般消費者相手のビジネスのため消費者契約法の適用により、多くの場合その規定は無効ということになり得ます(有効になるのは残存期間がごくわずかな場合など)。

時折、教材費が年会費に含まれるというような規約を用意している塾やスクールを目にすることがありますが、こういったものは上記より違和感のある規約と言えます。

3.中途解約についての定め

塾やスクールはクーリングオフ制度の対象となります。
クーリングオフ制度やクーリングオフ制度が適用できない場合、損害賠償の上限額などについて細かく説明していきます。

クーリングオフとは

いったん契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、契約を再考できるようにし、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度です。
クーリングオフの期間は、申込書面または契約書面のいずれか早いほうを受け取った日から起算します。特定継続的役務の場合は8日間です。また、書面の記載内容に不備があるときは、所定の期間を過ぎていてもクーリングオフできる場合があります。

通信販売の場合はクーリングオフできない

通信販売には、クーリングオフ制度はありません。
通信販売という部分だけを切り取ると、例えばオンラインスクールのように、毎月の月謝をオンライン決済するケースは通信販売であると思いがちですが、それは間違いです。重要な点は契約をインターネットや郵便等を用いて行ったかどうか?になります。
インターネットや郵便等を用いて契約を交わしていないのであれば、仮にオンラインで月謝を徴収していても通信販売には該当しないということになります。

損害賠償などの上限額

消費者は、クーリングオフ期間の経過後においても、将来に向かって特定継続的役務など、契約(関連商品の販売契約を含む)を解除(中途解約)することができます。その際、事業者が消費者に対して請求できる損害賠償などの額の上限は、以下のとおりです。記載以上の金銭を既に受け取っている場合には、残額を返還しなければなりません。

【契約の解除が役務提供開始前である場合】
語学教室:15,000円
家庭教師:20,000円
学習塾:11,000円
パソコン教室:15,000円

【契約の解除が役務提供開始後である場合(aとbの合計額)】
a 提供された特定継続的役務の対価に相当する額
b 当該特定継続的役務提供契約の解除によって通常生ずる損害の額として役務ごとに政令で定める以下の額
語学教室:50,000円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額
家庭教師:50,000円又は当該特定継続的役務提供契約における1か月分の授業料相当額のいずれか低い額
学習塾:20,000円又は当該特定継続的役務提供契約における1か月分の授業料相当額のいずれか低い額
パソコン教室:50,000円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額

入会規約などに年会費や入会金の返還はしないと定められているケースもよく目にしますが、それらは消費者契約法違反の可能性がありますので、一度運用中の規約を見直してみるとよいでしょう。

まとめ

特定商取引法や消費者契約法を意識せずに契約書や規約を作成した場合、これらの法律に違反しているために、思わぬ形で返金請求を受けるということになりかねません。

無効であることを知らずに契約書や規約を盾に返金を拒むようなことがあれば、順法精神のない塾やスクールだとして、口コミが出回ってしまうということも十分に考えられます。
一度そうなってしまえば、失われた信頼を取り戻すことは容易ではありません。

また、特定商取引法の違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなりますし、違反情報は消費者庁に通報もできる仕組みが用意されています。

そういったこともあり、特定商取引法や消費者契約法を意識した契約書を作成することは、塾生、スクール生のためだけではなく、塾やスクールにとっても重要なことなのですので、分からない場合は専門家に相談しましょう。

なお、本記事内に何度が出てきました消費者契約法(9条、10条)についてですが、様々なパターンがあり得る上に判断がかなり微妙となるため、記事の内容だけで判断するのではなく、個別にご相談いただく方が安全であることを最後にお伝えします。

SCHOOL MANAGERでは塾や教室などスクール関連の法律問題に精通した弁護士が対応致します。法律関連の問題が発生した場合に限らず、問題が起きそうなとき、さらには、問題の発生を予防するためにも、お気軽にご相談ください。

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